ビッグバン宇宙論
よみ方
びっぐばんうちゅうろん
英 語
big bang cosmology
説 明
ガモフ(G. Gamow)らにより提唱された宇宙進化のモデルで、宇宙はビッグバンという大爆発により誕生し、高温高密度の「火の玉」状態から膨張とともに冷却し、その過程で恒星や銀河などの構造を作りながら、現在に至ったという理論。宇宙膨張を意味するハッブル-ルメートルの法則、宇宙マイクロ波背景放射の存在、ビッグバン元素合成における軽元素存在量の理論と観測の一致、の三大観測結果を整合的に説明する宇宙モデルである。その一方、単純に考えるとビッグバンの瞬間は初期特異点になってしまうので、ガモフの考えたビッグバン宇宙論を宇宙の全進化史を記述する理論としてそのまま受け入れることはできない。
現在では宇宙の誕生は一般には以下のように考えられている。量子的論的な「ゆらぎ」によって莫大な数の小さな(ミクロな)時空(10-35 m程度)が誕生した。その中でインフラトンと呼ばれるスカラー場のエネルギーによって時空が指数関数的な膨張をして、量子力学の対象とはならない程度の大きな(マクロな)宇宙になったものがある。この指数関数的な激しい膨張をインフレーションという。インフラトンが素粒子の統一理論の中でどのような位置を占めているのかは明らかにはなっておらず、現在のところ具体的なインフラトンのモデルに定説はない。このインフラトンのエネルギーが放射に転化してインフレーションが終わり、宇宙は高温・高密度の放射で満たされる。この時点のマクロな宇宙をガモフの考えたビッグバンの瞬間(火の玉)とする。このように、現在ではインフレーション理論と組み合わせた形のビッグバン宇宙論が宇宙を記述する標準宇宙モデルとなっている。
1929年に宇宙が膨張していることが観測的に確立(ハッブル-ルメートルの法則)した後、宇宙に関する二つの見方が生まれた。一つは1946-48年にかけてガモフが提唱した上述のビッグバン宇宙論で、もう一つは1948年にホイル(F. Hoyle)らにより提唱された定常宇宙論である。当時はハッブル定数が現在よりも5倍以上大きく見積もられていて、ビッグバン宇宙論に基づいて推定した宇宙年齢は20億年程度であった。放射線年代測定法で決められた地球の岩石の中に、20億年より古いものが発見されたこともあり、両者のどちらが正しいのかなかなか決着がつかなかった。
1960年代にプリンストン大学のディッケやピーブルスらは、ビッグバン宇宙論が正しいとすれば、誕生初期に宇宙を満たしていた高温の放射(黒体放射)の名残が観測されるはずだと考え、それを検出する観測を計画していた。プリンストン大学に近いアメリカニュージャージー州のベル研究所で、高性能電波アンテナの開発研究をしていたアーノ・ペンジアス(A. Penzias)とロバート・ウィルソン(R. Wilson)が、空のあらゆる方向からやってくる正体不明の電波を偶然に検出した。プリンストン大学の研究者がそのような電波があるという話をしていると聞いて、二人はプリンストン大学を訪ねた。議論を重ねた結果、彼らはそれがビッグバン宇宙論の予言する宇宙初期の黒体放射の名残であると結論し、その結果を二つの論文にして1965年に発表した。これによって定常宇宙論が廃れてビッグバン宇宙論が確立した。定常宇宙論では宇宙は始まりも終わりもなく常に同じ姿をしているので、宇宙初期という概念はなく、宇宙を満たす黒体放射もないからである。
ペンジアスとウィルソンが発見した放射は現在では宇宙マイクロ波背景放射(CMBと略称されることも多い)と呼ばれている。CMBを発見したペンジアスとウィルソンは1978年にノーベル物理学賞を受賞した。またディッケらとともにこの放射の温度を推定したピーブルスは、その後ビッグバン宇宙論を物理学に基づいて体系化した功績により2019年のノーベル物理学賞を受賞した。
2024年04月08日更新
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