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周波数コム

 

よみ方

しゅうはすうこむ

英 語

frequency comb

説 明

極短時間(数10フェムト秒程度)のパルス列からなるレーザー光源。スペクトルは一定の間隔で並んだ多数の輝線(モード)からなっていて、その様子が櫛(comb:コム)の歯に見えることからこの名前がついた。光コム、光周波数コムなどと呼ばれることもある。また「コム」は「コーム」と表記されることもある。
天文観測における高分散分光で多数の輝線を用いると天体のスペクトルの波長校正が極めて高精度化できる。太陽系外惑星探査のドップラー法では、星のスペクトル線のドップラー効果によるわずかなずれを長期間にわたって測定することが必要であり、光周波数コムの利用が広まっている。これはアストロコムあるいは天文コムと呼ばれることもある。
光周波数コムの生成機構には、モード同期ファイバーレーザーから出るパルス列を使うものなどいくつかがある。通常の光周波数コムの輝線の間隔(コム間隔)は250 MHz程度だが、天文で用いる分光器の解像度では波長密度が高すぎて分解できない。天文コムは分光器の解像度(10 GHz程度以上)にマッチしてかつ広い波長範囲にわたっていることが必要で、さらに長期間にわたって安定であることも要求される。このため天文コムに用いる光周波数コム自体の技術開発も行われている。
光周波数コムは、可視光領域の周波数(1015 Hz)を電気回路で測定できる周波数(1011 Hz 以下)に落とすことを可能にしたので、レーザーを使った精密分光の発展への基本技術となり、これまでのセシウム原子時計の精度を3桁以上凌駕する光格子時計の開発にも不可欠であった。2000年頃にこの技術を開発したジョン・ホール(John Hall)とテオドール・ヘンシュ(Theodor Hänsch)は2005年のノーベル物理学賞を受賞した。

2021年11月01日更新

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    関連画像

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    光周波数コムの時間波形とスペクトル(概念図)
    産業技術総合研究所 計量標準総合センター 光周波数計測研究グループ
    https://unit.aist.go.jp/ripm/ofmes-g/research.html より転載(ラベルを若干変更)
    モード同期レーザーのイメージ図
    久我隆弘著『“測る”を究めろ!』(丸善出版)の図12.3の一部を転載。上の図のfrep
    はこの図ではfcと表されている。
    すばる望遠鏡による太陽系外惑星探索用のIRD(InfraRed Doppler)と呼ばれる観測装置の模式図。天体の光と周波数コムの光を同じ経路を通して分光器に入れる。
    https://abc-nins.jp/press/20180702/20180702_IRD_main.html
    すばる望遠鏡のIRD(InfraRed Doppler)実際に撮像したスペクトル画像。縞々に見える直線が星のスペクトル。中心部分を拡大して見える星のスペクトルの横にある点線のようなものが光周波数コムのスペクトル。星のスペクトルの直線の中で時々途切れているように見えるのは星自体の吸収線である。
    https://abc-nins.jp/press/20180702/20180702_IRD_main.html
    天文コムと望遠鏡のカップリング例
    田村元秀著『太陽系外惑星』新天文学ライブラリー1巻(日本評論社)の図6.5を転載