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ブラックホール

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よみ方

ぶらっくほーる

英 語

black hole

説 明

閉じた事象の地平線に囲まれた時空の領域のこと。いったんこの領域に入るとどんなものも再び外に出ることはできない。
ニュートン力学においても脱出速度光速度になる天体として18世紀にイギリスのミッチェル(J. Michell)やフランスのラプラス(P.-S Laplace)によって考えられていたが、ニュートン力学では光速度は特別の意味を持たないので単に真っ黒な星というだけであった。一般相対性理論では局所慣性系で特殊相対性理論が成り立ち、そこで光速度は情報の伝達速度の最大速度となる。事象の地平線のすぐ内側では局所慣性系自体が光速度以上の速度で落下するため、いったん事象の地平線の中に入った情報は外から観測することができない。外の世界は後述するホーキング放射以外、ブラックホールからの情報をまったく受けることができない。
ブラックホールの内部には、時空の曲率が発散する特異点が存在するが、内部構造の詳細は考えるブラックホールによって違う。アインシュタイン-マクスウェル方程式系の解としてのブラックホールは、質量、電荷、角運動量の3つのパラメータだけで記述できるという「無毛定理」があり、質量だけを持つシュバルツシルトブラックホール、質量と電荷をもつライスナー-ノルドストロームブラックホール、質量と角運動量を持つカーブラックホールなどがある。シュバルツシルトブラックホールは事象の地平線が一つであるのに対し、ライスナー-ノルドストロームブラックホールやカーブラックホールでは外部事象の地平線のほかに内部事象の地平線が存在し、内部地平線を通り抜けて特異点を避け、ホワイトホールから別の宇宙に出ていくことが数学的には可能である。しかし天体の重力崩壊超新星爆発)によってできたブラックホールでは、どの場合にも内部事象の地平線はできず、ブラックホールに入った物質はすべて特異点に向かうと考えられている。
ブラックホールにはその質量に反比例した温度の黒体放射(ホーキング放射)を放出し、表面積(事象の地平線の面積)に比例した莫大なエントロピーをもっていることが知られており、熱力学的対象として扱うことができる。
ブラックホールは当初は理論研究の対象でしかなかったが、1971-72年に観測的にその存在が実証された。X線源であるはくちょう座X-1(Cyg X-1)の観測から、これがX線連星系であり、その一方の高密度星が太陽質量の約20倍の質量をもつブラックホールであることがわかった。
現在、観測的にはブラックホールは質量によって次の3種類に分類されている。太陽質量の10倍程度以下の恒星質量ブラックホール、1000ないし1万倍の中間質量ブラックホール、100万ないし数10億倍の(超)大質量ブラックホールである。一つの銀河内に散在する恒星質量のものは大質量星の超新星爆発でできる。一つの銀河内に時折見られる中間質量のものと、多くの銀河の中心核にある(超)大質量のものの成因についてはまだよくわかっていない。銀河系天の川銀河)中には候補を含めると30個以上の恒星質量ブラックホールが見つかっている。
2015年9月14日、アメリカの重力波検出器であるLIGOによって、400メガパーセク(400 Mpc=13億光年)の彼方で太陽質量の約36倍と29倍のブラックホール連星が合体して太陽質量の62倍のブラックホールができた時の重力波が初めて直接検出された。その後2017年8月までにブラックホール連星の合体に伴う重力波が3回観測された。これらの重力波の発生源は、検出の年月日をつけてGW150914、GW151226、GW170104、GW170814と呼ばれている(その後、将来の検出数が増えることを想定して、年月日の後に観測時刻を協定世界時の時分秒で表した数字をつけるように命名法が変わった)。この4回の重力波の発生源となった連星系をなすブラックホールの質量は太陽質量の20倍を超えるものが多く、また合体後のブラックホールの質量はどれも太陽質量の20倍以上である。さらに、2019年4月26日にはそれまでの記録を大幅に超える事象(GW190426_190642)が観測された。GW190426_190642では、太陽質量の107倍と77倍のブラックホールが合体して175倍のブラックホールが生成され、太陽質量の約9倍に相当するエネルギーが重力波として放出された。従来電磁波(X線)で観測されている天の川銀河銀河系)内のブラックホールは太陽質量の10倍程度以下のものがほとんどなので、このような恒星質量ブラックホールでありながら、従来より質量がかなり大きいブラックホールの形成過程についても謎が生じている。
2019年4月10日にイベントホライズンテレスコープ(EHT)が、おとめ座銀河団にある巨大楕円銀河であるM87の中心にある超大質量ブラックホール(太陽質量の65億倍)のシャドウを観測したと発表した。銀河系の中心には太陽質量の400万倍の質量を持つブラックホールいて座A*(Sgr A*)が存在することが知られており、EHTはこの観測データも同じ時期に取得していたが、解析に時間を要し2022年5月にその結果を公表した。
2023年9月には、東アジアVLBIネットワーク(EAVN)などの電波干渉計の観測網によって過去20年以上にわたって得られたM87のブラックホールの170枚もの電波画像(波長7 mm帯)を分析した結果、ジェットの噴出方向が約11年周期で変化していることが明らかになった。コンピュータシミュレーションによりこの現象は、周囲の時空を引きずりながら自転しているブラックホールの自転軸と降着円盤の回転軸がずれているために起きる一般相対性理論の効果による歳差運動で説明できることが示された。ブラックホールの自転を観測的に証明した初めての例と考えられる。
ミニブラックホール超大光度X線源も参照。

検出された重力波イベントのカタログ(LIGO-Virgo-KAGRA Collaboration)
https://www.ligo.org/detections.php
2020年3月までに重力波で検出されたブラックホールのカタログ
https://www.ligo.org/detections/O3bcatalog.php
M87中心のブラックホールの画像に関する国立天文台の発表
https://www.nao.ac.jp/news/science/2019/20190410-eht.html
https://www.nao.ac.jp/news/science/2022/20220630-m87.html
https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230427-gmva.html
いて座A*(Sgr A*)の画像に関する国立天文台の発表
https://www.nao.ac.jp/news/science/2022/20220512-eht.html
M87中心のブラックホールの自転の証拠に関する国立天文台の発表
https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230928-eavn.html
M87中心のブラックホールの自転の証拠に関する日本EHTグループの発表
https://www.miz.nao.ac.jp/eht-j/c/pr/pr20230928


おとめ座銀河団の巨大楕円銀河M87の中心核のブラックホールまでの仮想の旅。イベントホライズンテレスコープによる。

https://www.youtube.com/embed/v_Bk2997YMA


M87のブラックホール周辺の科学的シミュレーションCGとイベントホライズンテレスコープによる観測結果の比較

https://youtu.be/zHjWSiSZRmo


合体するブラックホールとその周りの空間のゆがみ。
クレジット: SXS (Simulating eXtreme Spacetimes) プロジェクト
https://www.black-holes.org/

https://www.youtube.com/embed/1agm33iEAuo

 

自転するブラックホールの周りで歳差運動する降着円盤とジェットのCGアニメーション。ブラックホールの自転軸は画面右下に示されているZ軸の方向に固定されている。時間の0:21-0:25の間に、見る向きを変更するためにZ軸方向が変化する。
クレジット:Cui et al. (2023), Intouchable Lab@Openverse, Zhejiang Lab
https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230928-eavn.html

2023年10月03日更新

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    ブラックホールの概念図
    縣秀彦著、岡村定矩監修『ビジュアル天文学史』(緑書房)より転載。
    最初に同定されたブラックホールであるはくちょう座X-1(Cyg X-1)の位置(四角)を示す可視光画像(左)とその想像図(右)。ブラックホールと青色の大質量星が連星系をなしている。可視光画像の視野は4度x5度で、Cyg X-1の右やや下の明るい星ははくちょう座η星(η Cyg)。
    Credit: Optical(左): DSS; Illustration(右): NASA/CXC/M.Weiss
    https://chandra.harvard.edu/photo/2011/cygx1/
    銀河系中の35個の恒星質量ブラックホール(オレンジ丸)と候補(星形)の分布。太陽は黄色の円で囲んだ黄丸のマーク。黄色の線は距離の不確かさを示す。Corral-Santana J.M. et al. 2016, A.&A., 587, A61, 20 より引用・改変。
    縣秀彦著、岡村定矩監修『ビジュアル天文学史』(緑書房)より転載。
    2020年3月までに検出されたブラックホールと中性子星の質量を示す図。縦軸は太陽質量を単位とした質量、横軸はデザイン上の工夫で特に意味はない。図上部の説明文字の色は、図中の記号の色に対応している。二つの天体(連星)が重力波を放出して合体した場合は、元の二つと合体後の天体が矢印で繋がれている。
    縣秀彦著、岡村定矩監修『ビジュアル天文学史』(緑書房)より転載。
    https://ligo.northwestern.edu/media/mass-plot/index.html
    の図に日本語説明を補足したもの。
    いて座A*(左)とM87(右)の画像比較。上側はEHTで得られたブラックホール近傍画像。明るい光子リングの中に暗いブラックホールシャドウが見える。下側の画像は東アジアVLBI観測網(EAVN)で得られたブラックホール遠方画像。ブラックホール遠方画像において、M87では強力なジェットが見られるのに対し、いて座A*ではジェットの明確な証拠は得られていない。その一方でEHTで得られたリング画像はお互いとてもよく似ている。(クレジット:EHT Collaboration(EHT画像)、EAVN Collaboration(EAVN画像))
    https://www.nao.ac.jp/news/sp/20220512-eht/images.html
    %クリックすると動画が見られます%
    天の川を背景として太陽質量の10倍となるブラックホールから600 km離れた視点を想定し、理論的な計算を基に作成したシミュレーション画像。光はブラックホールより出られないため真っ暗で、周囲の光が重力でねじ曲げられる様子が描かれている。(Credit Ute Kraus 2004)
    https://ja.wikipedia.org/wiki/ブラックホール

    ブラックホールの自転の証拠と見られるデータ。(上)EAVN等で撮影したM87ジェットの電波画像の例。2013年から2018年にかけて7ミリメートル帯の波長で撮影された多数の画像を、2年分ずつ平均して3つの画像にしている。各画像の中心部から伸びる矢印はジェットの噴出方向を表す。(下)2000年から2022年の間に測定されたジェットの噴出方向の時間変化。赤色の曲線は、測定結果と最もよく一致する11年周期の歳差運動のモデルを表す。
    (クレジット:Cui et al. (2023))
    https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230928-eavn.html
    自転する巨大ブラックホールの周りで歳差運動する円盤とジェットの想像図。ブラックホールの自転軸は図の上下方向で動かない。ブラックホールの自転軸に対して円盤の回転軸が傾いていると、一般相対性理論の効果によってジェットの歳差運動が生じる。
    (クレジット:Cui et al. (2023), Intouchable Lab@Openverse and Zhejiang Lab)
    https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230928-eavn.html