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宇宙の距離はしご

 

よみ方

うちゅうのきょりはしご

英 語

cosmological distance ladder

説 明

伝統的な天体の距離測定において、異なる手法を次々につないで遠方の距離を測る様子が、あたかも「はしご」をつないで高いところまで届く様子に似ていることからつけられた呼び名。最初のステップは、地球と太陽の間の平均距離(1天文単位 =1 au)の決定である。1 au はレーダーで惑星までの距離を直接測り天体力学を利用して決める。第2ステップでは、年周視差などの手法で、太陽近傍にある恒星の距離を決める。これを基にして、精度の高い1次距離指標と呼ばれるセファイド種族Ⅰ)やこと座RR型変光星(種族Ⅱ)の距離を決め絶対等級を決める。第3ステップでは、セファイドを用いて、標準光源法により近傍の銀河までの距離を決める。第4ステップでは、距離の決められた近傍銀河を基準にして、惑星状星雲や球状星団の光度関数、銀河の面輝度ゆらぎ、およびタリー-フィッシャー関係やDn-σ関係のような距離指標関係式などを利用して遠方銀河の距離を決める。近年ハッブル宇宙望遠鏡によるセファイドの観測が40 Mpc(1.3億光年)まで届くようになり、Ⅰa型超新星の母銀河の距離をセファイドで決めることができるようになり、Ⅰa型超新星が距離はしごに重要な役割を果たすようになった。また約24 Mpc(8000万光年)の距離にあるNGC 4258の水メーザーの観測から、年周視差と同様の幾何学的方法により正確な距離が決められたことから、年周視差とセファイドのはしごをつなぐアンカーとしてNGC 4258が注目を集めている。ガイア衛星のデータ解析が完了すれば、銀河系内の多数のセファイドとこと座RR型変光星の距離が年周視差で正確に決められるので、距離はしごの最初のいくつかのステップは簡略化されるここになろう。また、スニヤエフ-ゼルドビッチ効果重力レンズを使った距離測定、さらには2015年に初めて観測された重力波による距離決定など、従来の「距離はしご」の枠組みに収まらないさまざまな距離決定法が登場して、「距離はしご」そのものは少しずつ形を変えてきているが、重要な天文学の概念である。

2018年09月28日更新

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    *宇宙の距離はしごの概念図。青色は種族Iの系列、赤色は種族IIの系列を示す。一番下のB-Wはバーデ-ウェッセリンク(Baade-Wesselink)法を表している。ガイア衛星の最終データが出れば、多数の銀河系内のセファイドとRRライリの年周視差が測定され、距離が正確に決まると想定される。
    https://www.smjohn.com/article/cosmic-distance-ladder-succession-of-methods の図を参考にして作成(岡村定矩氏提供)
    *セファイドとIa型超新星に基づく宇宙の距離はしごの2016年時点の結果
    岡村定矩「ハッブル定数」、シリーズ現代の天文学第4巻、谷口・岡村・祖父江編『銀河I』第2版 6.6節 図6.17(日本評論社)を元に作成(岡村定矩氏提供)。原論文は Riess et al. 2016, ApJ, 826, 56 。