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ラスタースキャン観測

 

よみ方

らすたーすきゃんかんそく

英 語

raster-scan observation

説 明

電波天文学や初期の赤外線天文学では、2次元アレイ型検出器の入手が困難なため、広がった天体の様子を捉えるには観測点を移動して得た1画素ごとの観測を集めて画像にする必要がある。この際に、感度が十分であれば1点ごとで測定に要する時間が短くても済むため、これに比べて主鏡の向きを移動する時間が無視できなくなり、観測の時間効率が著しく低下する。このため、観測点を天球上で連続的に動かして観測するのがラスタースキャン観測である。1本の直線上を移動しつつ連続的にデータを得ることを走査またはスキャンといい、これを少しずつずらして2次元を掃く。ほとんどの場合、ずらす方向は走査方向と垂直とし、長方形の領域に対する画像を得る。観測速度を向上するために、1走査ごとに走査方向を逆転させるのが通例である。スイッチング観測としてラスタースキャン観測を行う場合(ほとんどの場合がこれに当てはまる)には、1走査の両端をOFF点(ポジションスイッチを参照)とする場合と、観測領域から離れた点に数走査ごとに移動して別にOFF点を観測する場合とがある。2つのビームでスイッチング観測を行いつつビーム方向に走査して差を記録する観測方法もあるが、その場合には、地球大気の影響を最小限にするために1走査ごとに高度をわずかずつ変える方法をとるため、天球上では完全に平行な走査とはならない。長らく連続波観測でのみ用いられていたが、受信機感度が大幅に向上した結果、輝線観測でも用いられるようになった。ただし、この場合には、オンザフライマッピング(OTF)と呼ぶことが多い。大気だけを観測するOFF点の観測時間に対して観測目的の広い領域(連続するON点)を観測する時間を多く取ることができるので観測効率は高い。一方、アンテナを高速で動かすのでアンテナの動特性(変形や動作の遅れなど)の影響を受けたり、1画素のデータを得る間にアンテナが移動するために角分解能が若干悪くなる。ポジションスイッチと比べると1操作の時間が長くなりがちでON点とOFF点との観測時刻の違いが大きくなりスイッチング観測の効果が十分に機能しなくなることがある。この場合、走査方向に隣接する画素での違いは小さいのに対して、それと垂直方向に隣接する画素では違いが顕著になるため、大気や受信機の変動によって1本の走査ごとの違いが画像に縞模様として現れることがある。これを、スキャン効果といい、それを補正するために2次元の領域を縦と横に交互に観測して相互に補正するデータ処理を行うこともある。

2018年05月11日更新

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    ラスタースキャン観測を行う場合の観測点の移動の典型例。この場合、左下から右に向かって観測点を連続移動させ、観測域の右端に到達したところで移動方向を変更して1行上の線に沿って、今度は右から左へと観測点を移動させる。観測域の左端に到達したら、さらに1行上に移動して、再び左から右に観測点を移動する。以下、これを繰り返すことで、縦方向にも広がった2次元の領域をくまなく観測した画像を得ることができる。