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クルスカル図

 

よみ方

くるすかるず

英 語

Kruscal coordinates

説 明

一般相対性理論では、時空の近傍の2事象間の4次元的間隔をそれらの間の座標差の2次式で表す。この2次式の係数をメトリックテンソル、あるいは単にメトリックという。2事象間の4次元的間隔は座標系の取り方によらずその値を変えないが、メトリックの各成分は座標系によって値を変える。

電荷をもたない球対称ブラックホール時空を表すシュバルツシルト解では、事象の地平面で計量(メトリック)のある成分が無限大になってしまい、一見事象の地平線で時空の特異点であるかのように見え、シュバルツシルト特異点と呼ばれたこともあった。実際には事象の地平面で時空の曲率は無限大にならず、事象の地平面は特異点ではない。1960年、クルスカル(M. Kruscal)とセケレス(G. Szekeres)は独立に、この時空に対して事象の地平面でメトリックのあらゆる成分が無限大にならないような座標系 $(u,v)$ を見出した。

この座標系に基づいてつくられた時空図をクルスカル図、またはクルスカル-セケレス図という。この座標系では事象の地平線では光の世界線は時空の至るところで ±1 の傾きをもち、因果関係が見やすくなっている。また、この座標系ではブラックホール時空を表すばかりでなく、ホワイトホール時空も同時に表す。この座標は解析接続できて事象の地平線の外側に2つの漸近的に平坦な領域が存在する。この時空図で表される時空を、「極大拡大されたシュバルツシルト時空」という。

2023年04月18日更新

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    クルスカル図
    * クルスカル図:光の世界線の傾きを時空の至るところで±1にした時空図。
    岡村・家・犬塚・小山・千葉・富阪編『天文学辞典』、シリーズ現代の天文学別巻(日本評論社)p. 105