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化学特異星

 

よみ方

かがくとくいせい

英 語

chemically peculiar star

説 明

吸収線スペクトルが大きな異常を示し、星の大気の組成が太陽系組成と大きく異なると見られる星。さまざまな種類が存在するが、主なものには以下の型がある。1974年にプレストン(G.W. Preston)によって示された4つの分類(CP1からCP4)も付記する。
水素吸収線が弱い星は水素欠乏星と呼ばれ、いくつかの種類がある。大質量星が外層大気を失ったものはウォルフ-ライエ星と呼ばれる。PG1159型星は表面温度が60000-180000Kの領域に分布する後漸近巨星分枝(post-AGB)星であり、水素がまったく観測されない。低温(表面温度が5000-7000K)で超巨星に似たスペクトルを持つかんむり座R型星(R CrB型星)は脈動を示し、スペクトルには炭素系分子の吸収線も見られる。
強ヘリウム星は、B1-B2型主系列星で、ヘリウム吸収線が異常に強く、ヘリウムの組成も太陽組成の2から約10倍も多くなっている(ヘリウム超過星と呼ばれることもある)。水素吸収線が弱いので、水素欠乏星の仲間に分類されることもある。
重元素の組成異常はB型星やA型星に多く見られ、自転による乱流が弱かったり磁場によってガスの運動が抑えられる場合に、大気中での元素の拡散の効果によって生じると考えられている。
金属線A型星(Am星)あるいは金属線星と呼ばれるグループ(CP1)は、表面温度が7000-10000Kに分布する星で、CaあるいはScの吸収線が弱いか、あるいは金属線が強い。高温度であるためにCaのK線は弱くA型に分類されるが、金属元素組成は高いために金属線が強い星と理解される。
A型特異星(Ap星)はCP2に分類され、Si,Cr,Sr,Euなどの吸収線に異常が見られる。Siの強い星(シリコン星)は10000-14000Kに、Cr,Sr,Euの強い星(SrCrEu星)は7000-10000Kに分布する。いずれも磁場をもち、磁極と自転軸の極がずれた斜回転星モデルによりスペクトル線や光度の変動がよく説明されている。
水銀・マンガン星(HgMn星、CP3)は10000-14000Kの表面温度をもつ星で、異常に強い水銀とマンガンの吸収スペクトル線を示す。この2元素をはじめとする多くの重元素が太陽組成に比べて過剰を示す一方、ヘリウムは欠乏している。
弱ヘリウム星(CP4)は、B型主系列星で表面温度が強ヘリウム星より低く(18000-13000K)、水素バルマー線から分類されるスペクトル型にしてはヘリウムの吸収線が弱い星のグループである。
中小質量星の進化の過程で内部で合成された炭素が汲み上げられることによって炭素組成が増大しているのが炭素星やS型星である。また、連星系を成している場合には、主星で増大した炭素組成をもつ物質が伴星に降着することにより炭素組成が増大しているものもあり、バリウム星CH星などが知られている。

2019年09月13日更新

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    化学特異星の分類。西村、加藤、定金『天文月報』2003年7月号, p.383より引用。
    * HR図上に見られるいろいろな星。輝線を示す星は灰色で、吸収線の強さに異常を示す星は白抜きで表示してある。
    岡崎敦男「HR図上のいろいろな星」、シリーズ現代の天文学第7巻、野本・定金・佐藤編『恒星』 1.8節 図1.38(日本評論社)