スペクトル
よみ方
すぺくとる
英 語
spectrum
説 明
電磁波をプリズムや回折格子などの分散素子に通して得られる波長ごとの強度分布を示す画像やグラフのこと(電磁波以外の信号や 人文社会科学などでも様々な対象に対してスペクトルという言葉が 用いられるがここでは触れない)。
電磁波をスペクトルに分けることを分光するという。 太陽の光をスリットを通してプリズムに入射させると、虹のような色の帯(図1左)が見られる。これが太陽光のスペクトルである。 白色に見える太陽の光は、実際にはさまざまな色の光が混ぜ合わさっている。色の違いは光の波長の違いによる。波長が短い光は青っぽく見え、波長の長い光は赤っぽく見える。光の強度を縦軸にとり波長を横軸にとって、光の強度を波長の関数として表したもの、すなわち色の帯を定量的に表現した図1右もスペクトルと呼ぶ。波長と振動数およびエネルギーは互いに関係している(電磁波を参照)ので、横軸は波長の代わりに振動数またはエネルギーをとる場合もあるが、いずれもスペクトルである。グラフなどによる定量的表現は、光の強度分布に特に注目する場合にはスペクトルエネルギー分布と呼ばれることがある。
図1のように、光の強度が波長に対してなめらかに変化するものは連続スペクトル、特定の波長で特に強かったり弱かったりする部分を含むものは線スペクトルと呼ぶ。強い部分は輝線、弱い部分は吸収線で、合わせてスペクトル線と呼ばれる。輝線を含むスペクトルを輝線スペクトル、吸収線を含むスペクトルを吸収線スペクトルということがある。図2(a)に示す白熱電球からの光は黒体放射に似た連続スペクトルで、電球の温度によってスペクトルは異なる(温度 が高いほど青い光の相対強度が強い)。(b)に示すように、ナトリウム(Na)を含む物質を加熱してナトリウム原子を含むガスを作り、白熱電球からの光を背景にしてそのガスを見ると吸収線が現れる。一方、(c)のようにナトリウムガスの光だけをプリズムに通すと、同じ波長のところ に輝線が見られる。 ここに示した例はナトリウム(Na)のD線と呼ばれるもので、波長 589ナノメートル付近にある接近した2本の線(波長589.0 nmと589.6 nm)からなる。
吸収線や輝線の波長は原子に固有のものである。スペクトル線の波長からどのような原子が存在するかを知ることもできる。これをスペクトル線を同定するという。また、同じ原子の複数のスペクトル線の強度、あるいは異なる原子のスペクトル線の強度の解析から、ガスの温度や密度などが推定できる。ガスに分子が含まれている場合は、多くの吸収線(あるいは輝線)が狭い波長範囲に密集して、バンド(帯)と呼ばれる特徴を作る(バンドスペクトルを参照)。 このように、スペクトルは発光源の物理状態や元素組成を知る上で極めて重要なものである。
天文学では、天体の光をプリズムなどを使ってスペクトルに分ける観測を分光観測と呼ぶ(これに対して、ある波長範囲のすべての光を合わせた強度を測定する観測を測光観測と呼ぶ)。天体から発せられる光は、可視光以外の電磁波の広い波長範囲にわたっている。スペクトルは可視光だけでなく、電磁波全体に適用される概念である。同じ概念でも波長帯によって少し呼び名が異なる場合もある。たとえば、連続スペクトルに関与する成分は、可視光では連続光というが、電波では連続波という。
2023年02月09日更新
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