ゲージ相互作用(ゲージ理論を参照)によって素粒子間に働く力を媒介する粒子のこと。ゲージボソンとも呼ばれる。スピン1を持つボース粒子であり、ベクトル場によって記述される。素粒子の標準模型のゲージ粒子には、電磁気力(電磁相互作用)を媒介する光子、弱い力(弱い相互作用)を媒介するウィークボソン(WボソンとZボソン)、強い力(強い相互作用)を媒介するグルーオン(量子色力学を参照)がある。重力を媒介するゲージ粒子である重力子は未発見である。四つの力も参照。
ビッグバン直後に起きたビッグバン元素合成による軽元素の元素存在度、および宇宙マイクロ波背景放射(CMB)のパワースペクトルから制限される宇宙におけるバリオン(通常の物質)の量(宇宙の臨界密度の約5%)に対して、現在の(近傍の)宇宙で観測されるバリオンの量が少ないという矛盾を指す言葉。現在の宇宙に観測されていないバリオンがあることを意味するので、ミッシングマスにちなんでそれをミッシングバリオンまたはダークバリオンという。
現在の標準宇宙モデルによると、宇宙はダークエネルギー(約69%)、ダークマター(約26%)、バリオン(約5%)から構成されている。2012年時点での調査によると、この5%のバリオンのうちで、重力の影響で塊となって存在する銀河、銀河を包み込む銀河周辺物質、および銀河団内にある銀河間物質は約18%、塊ではなく広く広がった温度103-105 Kと比較的低温度の銀河間物質が約28%、それより高温(105-107 K)の中高温銀河間物質(Warm and Hot Intergalactic Medium: WHIM)が約25%で、残りの約29%が観測されていないミッシングバリオンである(図参照)。
宇宙の構造形成のコンピュータシミュレーションから、広がったWHIMは宇宙の大規模構造に沿って分布していると考えられている。プラズマ状態にあるWHIMはその温度から、紫外線から軟X線にかけての電磁波が観測に適しているが、薄く広がっているので技術的に検出が難しい。WHIMに含まれる重元素の輝線や、活動銀河核など明るい背景天体のスペクトルに見られる吸収線などの観測を通してその組成や分布を研究することはXRISM衛星を含むX線天文衛星の重要な目的の一つである。
2020年に発表された、高速電波バースト(FRB)から測定される銀河間空間における分散量度と赤方偏移の相関関係の発見(図参照)により、宇宙には予想通り約5%のバリオンがあり、その内の約80% (ミッシングバリオンを含む) が銀河間プラズマとして存在していること自体は明らかとなった。分散量度は宇宙の電子の柱密度に比例し、高速電波バーストはこれを直接測定しているので、銀河間プラズマからの放射を直接捉えて分布を描きだしたわけではないが、ミッシングバリオン問題は解決した(ミッシングはバリオンはない)と考えられている。
丙午(ひのえうま)は干支番号42の干支である。「丙午の年に生まれた女性は気性が激しすぎて夫を不幸にする」という科学的根拠のない迷信の影響で、丙午の年である明治39(1906)年生まれの女性には、将来を悲観して自殺するなど多くの悲劇が起きた。
中国では「丙午」と「丁未」の年は天災が多いと言われていたが、それが江戸時代初期に「丙午の年には火災が多い」という根拠のないうわさに変わったことがもとだと言われている。17世紀の文献には、「丙午の男は妻を殺し、女は夫を殺す」などとあり、男女の区別はない時代もあったらしい。ところが、天和3年(1683年)に江戸で放火事件を起こし処刑された「お七」という女性のことを、「八百屋お七」の物語として井原西鶴が浮世草子に書いた貞享3年(1686年)以降、お七は丙午の生まれとされた(諸説ある)ことから、女性の結婚と出産に関する強い迷信となったといわれている。
人口1万人あたりの出生数でみると1906年の丙午は前年の311.62人から296.42人まで5%低下している。次の丙午の1966年には、前年の185.57人から137.42人まで26%も急減している。5%しか低下しなかった1906年との大きな違いは、簡便な避妊方法の普及により出生を調節できた影響が大きかったと考えられている。2026年に次の丙午が巡ってくる。
大阪教育大の2022年度卒業論文に、丙午に関するアンケート調査を行ったものがある(注1)。その論文によると、1966生まれの142人(うち女性56%:当事者)と18-25歳の大学生210人(うち女性83%)に尋ねた結果、当事者の半数近くが「丙午生まれで嫌な思いをしたことがある」と答えたが、「結婚や出産を避けるべきだ」と考える人は1%で、否定的にとらえている人はほとんどいなかった。一方若い大学生では、言葉も意味も理解している人は11%であったが、迷信を伝えた上で信じるかどうかを尋ねると23%が「信じる」とし、女性の37%は丙午の出産を「気にする(避けたい)」と答えた。また、2026年に「出生数が低下する」と考える人は60%に上った(注1)。
科学的根拠の全くない迷信でもいったん広く信じられてしまうとその払拭には長い時間がかかることが分かる。インターネットを通じて誰でも簡単に情報発信できる時代になった。偽情報や悪意のある情報は言うまでもないが、科学的根拠のない話や迷信を不用意に拡散させることがないよう十分留意すべきである。
注1:大阪教育大学 https://osaka-kyoiku.ac.jp/university/kouhou/detail.html?pno_5657=2 (2023.04.06)
読売新聞オンライン https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20230405-OYO1T50028/
ニュートンが「プリンキピア」の中で述べているニュートンの運動法則、およびニュートンの万有引力の法則を基礎とし、確立された力学体系。
ニュートンの運動法則は、全3巻からなる「プリンキピア」の第2巻で述べられており、物体の運動に関する以下の3法則よりなる。
第1法則: 力が作用していない物体は、静止または等速直線運動を続ける。
第2法則: 物体の運動量の変化は作用する力に比例する。また、その方向は力の方向に起こる。
第3法則: 二つの物体が力を及ぼしあうとき、働く力は大きさが等しくかつ向きが反対である。
第1法則は、「慣性の法則」とも呼ばれている。慣性とは、力を受けていない物体が初速度を保とうとする性質のことである。したがって、力が作用していない物体の初速度が0の場合は静止を続け、初速度が0でない場合は等速直線運動を続ける。この法則は、第2法則において、作用する力が0の特別な場合にすぎないとの見方もある。しかし第1法則は、静止または等速直線運動が成り立つ座標系(慣性系という)を選び出す条件を示しているという点で重要である。
第2法則は「運動の法則」ともいわれている。運動量は、質量 $m$ の天体が速度 $\boldsymbol{v}$ で運動しているとき、方向が $\boldsymbol{v}$ で大きさが $mv$ で表わされるベクトルである。そこで作用する力を $\boldsymbol{F}$と書くと、第2法則は
$$\boldsymbol{F}= m \frac{d\boldsymbol{v}}{dt} = m\frac{d\boldsymbol{r}^2}{dt^2} $$
または
$$\boldsymbol{F}= \frac{d\boldsymbol{p}}{dt} $$
と表現できる。ここで $m\boldsymbol{v}$ は運動量 $\boldsymbol{p}$ である。この常微分方程式をニュートンの運動方程式という。初期条件として、天体のある時刻における位置と速度を与えれば、運動方程式から任意の時刻の運動の状態を定めることができる。速度 $\boldsymbol{v}$ の変化 $d\boldsymbol{v}/dt$ は加速度 $\boldsymbol{a}$ であることから、運動方程式は
$$\boldsymbol{F}= m\boldsymbol{a} $$
となる。
第3法則は「作用反作用の法則」とも呼ばれている。物体1が物体2に力 $F_{12}$(作用)を及ぼしているとすると、同時に、物体2は物体1に力 $F_{21}$(反作用)を及ぼしている。このとき、二つの力の間には $F_{12}$=− $F_{21}$ が成り立つ。ニュートン力学では、力が及ぶ時間は瞬間であるとしている。力が空間を有限な時間をかけて伝わる場合は、作用反作用の法則は成り立たず、運動量保存則に置きかえなければならない。
一方、ニュートンの万有引力の概念は「プリンキピア」の第二版において追加された。ニュートンは、まず、ケプラーの第1法則の「惑星は太陽を焦点とする楕円軌道上を運動する」ことに着目した。惑星の運動は楕円運動をしていることから、静止または等速直線運動ではない。そこで第一法則より、惑星には力が作用していることがわかる。さらに、ケプラーの第2法則「太陽と惑星を結ぶ動径が単位時間内に掃く面積は一定である」ことから、惑星に作用する力は、太陽を向く中心力である。惑星が太陽のまわりを楕円運動するために働く中心力には、太陽からの距離に比例する力と、太陽からの距離の2乗に反比例する力の二つが考えられる。前者の力の場合、太陽は楕円軌道の中心に位置することになる。一方、後者の力の場合は、太陽は楕円軌道の焦点に位置する。実際の惑星は、ケプラーの第一法則より、太陽を焦点とする楕円運動をしている。以上から、ニュートンは、惑星に作用する力は、太陽からの距離の2乗に反比例することを発見した。さらに、ケプラーの第3法則の「公転周期の2乗は軌道長半径の3乗に比例する」ことに矛盾しないようにするため、惑星に働く力は、太陽からの距離の2乗に反比例し、太陽の質量と惑星の質量の積に比例すると結論づけた。この結論を「ニュートンの万有引力の法則」という。太陽と惑星の質量をそれぞれ $M$、$m$ とし、太陽と惑星の間の距離を $r$ とすると、惑星に作用する力 $F$ は、
$$F = G \frac{mM}{r^2} $$
と表わされる。ここで、Gは万有引力定数である。このように、ニュートンの万有引力の法則は、ケプラーの法則とニュートンの運動の法則を組み合わせることで得られる。
ニュートンは木から落ちるりんごを見て万有引力の法則に気づいたという逸話がある。この話の真偽は定かではないが、ニュートンはこの法則が天体間だけではなく、地上のあらゆる物体間においても成り立つことにも言及している。20世紀になり、原子スケールの粒子や光速に近い速さの物体の運動は、ニュートン力学では説明できないことがわかってきた。これらの運動を解釈するために発展した分野が、波動方程式により記述される量子力学と、アインシュタインの相対性理論が基礎となる相対論的力学である。この二つの分野に対して、ニュートン力学は「古典力学」と呼ばれるようになった。
コラプサーを参照。
重力崩壊した星のこと。崩壊星とも呼ぶ。昔は、星が重力崩壊した後に残るもの、つまり今でいうブラックホールのことを指す言葉として使われていた。最近では、ガンマ線バーストや爆発エネルギーの大きい超新星などのコラプサーモデルの崩壊星を指すときに良く使われる。
コラプサーモデルでは、太陽の10倍程度より重い星が重力崩壊したときに、中心からジェットや円盤風を放出して、ガンマ線バーストや極超新星爆発を起こす。星が重く回転が速いので、中心にブラックホールと降着円盤ができて、ジェットや円盤風を駆動すると考えられている。ブラックホールではなく、マグネターなどの中性子星が中心エンジンの役目を果たす可能性もある。
ロングガンマ線バーストに対するコラプサーモデルの妥当性は、いくつかのロングガンマ線バーストと同時に超新星爆発が発見されたことで決定的となった。最初に発見されたGRB980425に付随する超新星SN1998bwは爆発エネルギーの大きな極超新星であった。ただし、ロングガンマ線バーストに付随する超新星でも通常のエネルギーのものも観測されている。これらは主にⅠc型超新星である。このことは、コラプサーの親星が水素外層やヘリウム外層をもたず、それらが吹き飛んだウォルフ-ライエ星のような構造をもつことを示唆する。親星に水素外層があるとⅡ型の超新星になるが、ジェットが外層を突き破れずガンマ線バーストにならない可能性がある。ロングガンマ線バーストの母銀河は金属量(重元素量)が少なく、太陽組成の10%程度以下であることが、残光の吸収線の観測などから示唆されている。
太陽質量の約8倍以上の大質量星が進化の最後に起こす大爆発。超新星の分類ではⅡ型、Ⅰb型、Ⅰc型である。この中で親星の外層が剥ぎ取られた後で爆発したものは水素欠乏型超新星(stripped-envelope supernova)と呼ばれることもある。
天文単位を表す記号。以前は大文字 AU などが使われたが現在の正式表記は小文字の au である。
アルハゼンを参照。
Hα線を参照。
オットー・リュドビゴビッチ・シュトルーベ(Otto Lyudvigovich Struve;1897-1963)は、ロシア生まれで主にアメリカで活躍した天文学者。しばしばストルーベまたはシュトルーフェとも記される。グスタフ・ウイルヘルム・ルートビッヒ・シュトルーベの子としてハリコフに生まれた。1914年ハリコフ大学に入学するが、第一次大戦とロシア革命に翻弄されトルコに亡命、1921年にアメリカに渡った。1923年にシカゴ大学で学位を得て、1927年にアメリカに帰化した。シカゴ大学助教授を経てヤーキス天文台に入り、1932年に同天文台の台長となった。1939年にマクドナルド天文台長を兼任。1950年にカリフォルニア工科大学の主任教授になり、1952年から1955年にかけて国際天文学連合の第10代会長に就任、1959年にはアメリカ国立電波天文台 (NRAO) の初代台長に就任するなど天文学に関わる組織の要職を務めた。
恒星天文学の分野で多くの業績を挙げており、特異星、近接連星、恒星大気論など広範なテーマを扱い、恒星進化論の発展に大きな寄与をしている。また、アストロフィジカル・ジャーナル誌の編集長を15年間努めたり、一般向け雑誌のスカイ・アンド・テレスコープ誌に天体物理学の概念を分かりやすく解説した記事を書くなど、天文学の一般普及にも尽くした。
子どもがいなかったため、4代にわたり高名な天文学者を生んだシュトルーベの家系は、1963年の彼の死とともに終わった。1944年にはロンドン王立天文学会ゴールドメダル、1948年にブルースメダルを受賞。
http://www.nasonline.org/publications/biographical-memoirs/memoir-pdfs/struve-otto.pdf
IXPE衛星を参照。
(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)
NASAとイタリア宇宙機関の協力により、2021年12月9日にケネディ宇宙センターからスペースX社のファルコン9ロケットで打ち上げられたX線 偏光観測衛星。重量337 ㎏の小型衛星で、軌道傾斜角0.2 度、高度540 kmの低地球軌道に投入された。
同一設計の3台のX線偏光望遠鏡を搭載しており、それぞれ直径30 cm・焦点距離4 mのX線反射鏡と、2-8 keVのX線の偏光をとらえるガスピクセル検出器の組で構成されている。視野は12.9分角、角度分解能は25秒角、有効面積は2.4 keVで166cm2である。エネルギー分解能は2.7 keVで22%、6.4 keVで16%であり、偏光に対する感度を示す変調因子(modulation factor)は2.6 keVで0.29、4 keVで0.43、6.4 keVで0.55である。(X線望遠鏡も参照。)
2022年2月に超新星残骸カシオペアAの偏光度の画像を発表し、広い範囲で1.8%±0.3%の偏光度があり、これを高エネルギー電子が磁場中で放出するシンクロトロン放射として、磁場が放射方向を向いていることを示した。
ホームページ:https://ixpe.msfc.nasa.gov/about/index.html
1603年にドイツのバイエル(J. Bayer)によって出版された世界で初めての全天星図『ウラノメトリア』(バイエル星図とも呼ばれる)で用いられた恒星の命名法。
各星座の明るい星からα(アルファ), β, γ ...とギリシャ文字の小文字(足りない場合はアルファベットの小文字など)を当てはめた。ただし当時の等級は眼視観測によるもので、明るさに従って1等星から6等星までの6段階に分けた古典的なものだったので、現代の精密な等級の順でない場合もある。フラムスティード番号も参照。
星座毎に、明るい星に対して西(赤経の小さい方)から番号をつけて、星座名とその番号を組み合わせた名称。フラムスティードは星の位置の観測データを赤経順にカタログしていた。しかし、番号は『天球図譜』の暫定版にはあるが正式版にはなく、番号をつけるという命名法をフラムスティード自身が考案したのではないと考えられている。
100年以上前に導入された明るい星の名称であるバイエル符号は全天の星座を対象としているが、フラムスティード番号はイギリスから比較的観測しやすい星座のみを対象としている。ただし、バイエル符号より多く、2500個以上の星につけられている。バイエル符号とフラムスティード番号がともにある星についてはバイエル符号で呼ぶことが多い。フラムスティード番号の良い例は、最初に太陽系外惑星が発見されたペガスス座51番星(51 Peg)である。
英国の初代王室天文官フラムスティードの観測データをもとに1729年に出版された星図。出版に関してニュートン、ハレーとフラムスティードの間に問題が起き、古いデータに基づく暫定版をニュートンとハレーがフラムスティードの同意を得ずに勝手に出版し、裁判に敗れてその暫定版は処分されるといういきさつがあった。正式版はフラムスティードの死後に夫人たちによって出版された。
望遠鏡による観測から作られたはじめての星図で、グリニッジ王立文台から観測できる26星座の図が掲載されている。1603年出版の星図『ウラノメトリア』ではそれまでの慣例に従って星座絵を背面から見た状態で描いていたが、『天球図譜』では正面から見た絵に描かれた。
小惑星ディディモスとその衛星ディモルフォスを調べるための、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のミッション。名称はギリシア神話の女神へーラー(ヘラ、ヘレとも表記)からとられた。アイーダ計画を構成する1つの探査機となっている。ディモルフォスには、アメリカ航空宇宙局(NASA)のダート探査機が2022年9月に衝突しており、その衝突の状況を詳しく調べることが目的である。2024年打ち上げ予定で、ディディモス-ディモルフォスへの到着は2027年の予定である。
ヘラは、総質量約1300 kgの探査機である。ヘラには、カメラ、分光計、距離計、赤外線カメラなどの機器が搭載されている。また、2機の小型の探査機を載しており、小惑星近傍で分離する計画である。
探査機を小惑星に衝突させることで、小惑星の軌道がどのくらい変化するのかを調べるアメリカ航空宇宙局(NASA)のミッション。英語のDouble Asteroid Redirection Test(二重小惑星軌道変化試験)の頭文字からついた名前。アイーダ計画を構成する1つの探査機となっている。
2021年11月24日に米国のヴァンデンバーグ空軍基地からファルコン9ロケットにより打ち上げられ、2022年9月26日に小惑星ディディモス(Didymos)の衛星であるディモルフォス(Dimorphos)に衝突した。探査機質量は約600 kgで、ディモルフォスへの衝突速度は秒速6 km/sほどであった。探査機は衝突すると破壊されてしまうが、搭載されたカメラによって探査機が衝突する瞬間まで撮影が行われた。また、衝突前にリシアキューブ(LICIACube)というイタリア宇宙機関が製作した小さな探査機を分離し、これによって衝突後の様子を撮影した。
ディディモスの大きさは約800 m、ディモルフォスは約160 mであると推定されている。ディモルフォスはディディモスの周りを周期約11時間55分で公転していたが、ダートの衝突後には11時間23分に変化した。
天体の地球衝突から人類を守ろうとする活動のこと。スペースガード(spaceguard)と呼ばれることもある。「地球防衛」という日本語が当てられることもある。
太陽系の約46億年にわたる歴史において天体の衝突は常に起こっていることではあるのだが、この天体衝突が人類にとって非常に大きな脅威になりうるということが広く認識されるようになったのは、恐竜絶滅が小天体の地球衝突によるという説が1980年にルイス・アルバレス(Luis Alvarez; 1911-1988)らによって発表されたことによる。1990年代になると、天体の地球衝突に具体的に対応していこうという活動がスペースガードという名称で開始された。1996年には、国際スペースガード財団や日本スペースガード協会が設立されている。1998年頃からは、地球接近天体(Near Earth Object: NEO)の発見が急速に増大しはじめた。また、2000年頃からは国連の中でも議論が始まり、名称もプラネタリーディフェンスと呼ばれるようになった。
プラネタリーディフェンスとして行うべきことは、第一に地球に衝突するNEOを発見し、追跡観測を行って軌道を正確に求めることである。軌道が正確に分かれば、地球に衝突するかどうかを軌道計算によって確認することができる。第二には、地球に衝突するNEOが発見された場合に備えて、衝突回避方法の検討を行うことである。そのためには、NEOがそのような物理的性質を持っているのかも把握しておく必要がある。また、地球衝突回避ができない場合には、どのようにして被害を最小化するのかも重要な検討課題である。国際協力やそのための法整備、そして一般への情報発信の仕方の検討など、プラネタリーディフェンスの活動は多岐にわたる。
現在、NEOの発見個数は急速に増大しており、2022年半ばで約3万個発見されている。小惑星の物理的性質を調べる探査も進められており、探査機が接近したNEOは約10個にのぼる。一方で天体の地球衝突回避のために小惑星の軌道を変更する実験がアイーダ計画として行われている。アイーダ計画は米国のダート探査機と欧州のヘラ探査機で構成されている。ダート探査機は、2022年9月に小惑星ディディモス(Didymos)の衛星ディモルフォス(Dimorphos)に衝突し、その軌道を変更する実験を行った。2029年には大きさが300 m余りの小惑星アポフィス(Apophis)が地表から約3万kmの地点を通過することが予想されており、その観測も計画されている。
ホームページ
NASAのPlanetary Defense Coordination Office
https://www.nasa.gov/planetarydefense/
ESAのホームページ
https://www.esa.int/Space_Safety/Planetary_Defence
小惑星の軌道を変更する実験を行う計画。英語のAsteroid Impact and Deflection Assessment(小惑星への衝突による軌道変化の評価)の頭文字からAIDAの名前がついた。米国のダート探査機によるミッションと欧州のヘラ探査機によるミッションからなる。ダートは2021年11月24日に打ち上げられ、2022年9月26日に小惑星ディディモス(Didymos)の衛星ディモルフォス(Dimorphos)に衝突した。ヘラは2024年に打ち上げ予定であり、2027年にディディモス-ディモルフォスに到着する予定である。ヘラはこれらの天体を詳細に観測し、衝突がこれらの天体にどのような影響を及ぼしたのかを調べることになる。