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電磁波

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よみ方

でんじは

英 語

electromagnetic wave

説 明

電場と磁場の振動が互を誘導し合って空間を伝わる波のこと。荷電粒子が力を受けて加速度運動する場合や、原子中の電子のエネルギー状態が変化する際に発生する(スペクトルも参照)。電磁波は空間内で電場と磁場そのものが振動する現象で、媒質がない真空中でも空間を伝わり、エネルギーを運ぶ。電磁波は横波で、電場と磁場の振動方向は互いに直交しており、波はその両者に直交する方向に進む(図1参照)。

真空中で電磁波の伝わる速さ(光速度 $c$)はどのような系から見ても一定である。これは光速度不変の原理と呼ばれる。光速度 $c$ と波長 $\lambda$ と周波数(振動数ともいう)$\nu$ の間には $c = \nu\lambda$ の関係がある。媒質中を電磁波が伝わる速さ $v$ は真空中の光速度 $c$ より遅く、$n = c/v$ で媒質の屈折率 $n$ が定義されている。

電磁波は、波長によって性質が変わり、また物質との相互作用の仕方が変わるので、波長帯毎に異なった名前で呼ばれることが多い。波長の短い方から順に、ガンマ線X線紫外線可視光(可視光線)、赤外線電波と呼ばれるが、それぞれの中でさらに細分して呼ばれることもある(図2)。ただし、境界波長(エネルギー)はそれほど厳密に決まっているわけではない。図2は理科年表2017年版に基づいて作成したものである。とくに、X線とガンマ線の区別は波長によるものではなく、原子核の状態の遷移によって発生するものをガンマ線、電子の状態の遷移によって発生するものをX線と呼ぶ。

電磁波は、波動としての性質(波動性)と粒子としての性質(粒子性)を併せ持つ。つまり電磁波は「波でもあり粒子でもある」。これを粒子と波動の二重性ということがある(ド・ブローイ波長も参照)。電磁波の波長が長いほど波動性が、短いほど粒子性が顕著になる。粒子としての電磁波を光子と呼ぶ。電磁波の周波数(振動数)$\nu$ と光子1個が運ぶエネルギー $E$ の間には $E=h\nu$ という関係がある。ここで $h$プランク定数である。すなわち、周波数の高い(波長の短い)電磁波ほど光子のエネルギーが高い。電磁波を特徴付ける場合、ガンマ線やX線など波長の短い電磁波は、波長ではなくエネルギーで、また波長の長い電波は、波長ではなく周波数で表すことが多い。中間の可視光や赤外線は波長を用いることが多い。電磁波の名称と性質を表1にまとめた。

宇宙にはさまざまな天体があり、広範囲のエネルギーが関与するさまざまな活動をしているので、宇宙からはすべての波長の電磁波が地球に届く。そのうち、可視光線と赤外線の一部、および電波は地表まで届くが(図3:大気の窓を参照)、それ以外の電磁波は地球大気に吸収されて地表には届かない。ただし、波長数10 mより長い電波は、吸収されるのではなく電離圏 (電離層とも言う)で反射されるために地表に届かない。それらを観測するためには、人工衛星などの飛翔体を用いて大気外から観測する必要がある。一つの天体をさまざまな電磁波で見ると、電磁波を発生するメカニズムの違いによって、さまざまに違った姿が見える(図4、図5を参照)。宇宙で 起こる現象を理解するには、すべての波長の電磁波による観測が重要である。

2023年05月11日更新

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    *図1 電磁波の概念図
    *図2 電磁波の名称と対応する波長と周波数(振動数)及びエネルギー。名称の境界は厳密に定義されてはいない。
    * 図3 大気の窓。横軸は波長で縦軸は地上高度。さまざまな波長の電磁波は大気による吸収のため、緑で示す領域の上端高度より下(地表に近いところ)には届かない。
    (原図は芝井広氏による)
    * 図4 さまざまな波長の電磁波で見た天の川
    https://mwmw.gsfc.nasa.gov/mwpics/mwmw_8x10.jpg をもとに製作
    *図5 さまざまな波長の電磁波で見たアンドロメダ銀河(M31)
    岡村・家・犬塚・小山・千葉・富阪編『天文学辞典』、シリーズ現代の天文学別巻(日本評論社)
    口絵3
    表1 電磁波の種類と名称及び用途など
    岡村・家・犬塚・小山・千葉・富阪編『天文学辞典』、シリーズ現代の天文学別巻(日本評論社)の表(p. 279)を改訂。